MS-DOS 2.0の進化:ディレクトリとハードディスクの時代へ(1983年)

TECH

はじめに

1983年3月、IBMは新型パーソナルコンピューター「IBM PC/XT(Model 5160)」を発表しました。この機種は、初めてハードディスク(10MB)を標準搭載し、従来のIBM 5150と比べてストレージと拡張性が大きく向上していました。

この新しいハードウェアに対応するため、オペレーティングシステムも大きな進化を遂げます。それが MS-DOS 2.0(PC DOS 2.0) です。MS-DOS 2.0は単なるバージョンアップにとどまらず、現代的なOSの基礎を築く重要なマイルストーンでした。


なぜMS-DOS 2.0は重要なのか?

MS-DOS 2.0は、MS-DOS 1.x系と比較して以下の大きな進化を遂げています:

  • サブディレクトリの導入
  • ハードディスク(HDD)への対応
  • Unix風のファイル構造とAPI設計
  • デバイスファイルの概念
  • パイプ、リダイレクト、バッチ処理の強化

これらの要素は、MS-DOSが「単なるフロッピーベースのブートOS」から「本格的なファイルシステムを持つOS」へと成長するために不可欠なものでした。


IBM PC/XTとMS-DOS 2.0の関係

IBM PC/XT(1983年3月発売)は、Intel 8088(4.77 MHz)、128KB以上のRAM、そして最大10MBのハードディスク(ST-412)を搭載することで、業務用にも耐えるPCとして位置づけられました。

MS-DOS 1.x系はフロッピーディスクの構成に最適化されており、HDDのようなランダムアクセスを前提としたストレージには向いていませんでした。そのため、IBMとマイクロソフトは協力し、完全に設計を見直したDOSを開発しました。それが MS-DOS 2.0 です。


MS-DOS 2.0の主な機能と特徴

1. 階層ディレクトリ構造の導入

MS-DOS 1.xではファイルはすべて「ルートディレクトリ」に存在し、分類ができませんでした。MS-DOS 2.0では、サブディレクトリが使えるようになり、ファイルを階層的に管理できるようになりました。

C:\> mkdir projects
C:\projects> mkdir test
C:\projects\test> _

この構造はUnixのファイルシステムから強く影響を受けたものでした。


2. ハードディスクのサポート

MS-DOS 2.0は、最大10MBのハードディスクに対応しました。これは当時としては非常に大きな容量であり、長期間のファイル保存や多量のデータ処理を可能にしました。

  • FAT12のままでは制限があるため、以降のバージョンでFAT16への対応も進められていきます(2.0時点ではFAT12ベース)。

3. Unix風システムコールとAPI

MS-DOS 2.0では、Unixを参考にした以下のような機能が導入されました:

  • ファイルディスクリプタ
  • 標準入出力のリダイレクト (>, <, |)
  • 単純なパイプ処理
  • ファイルとデバイスを区別しない設計(CON, PRN, AUX など)

これにより、開発者はより複雑で強力なスクリプトやプログラムを組むことが可能になりました。


4. バッチ処理とCONFIG.SYSの導入

  • バッチファイル(.BAT)のサポートが強化され、自動実行や複雑な処理を記述できるようになりました。
  • 起動時設定ファイル CONFIG.SYS が導入され、デバイスドライバの読み込みやシステム構成が柔軟に行えるようになりました。

互換性と課題

MS-DOS 2.0は、1.xとの下位互換性をある程度維持しつつ、まったく異なる構造を採用したため、すべての1.x向けソフトがそのまま動作するとは限りませんでした。特にハードウェア直叩き系のツールは注意が必要でした。


まとめ:MS-DOSはここから「OS」になった

MS-DOS 2.0は、単なるブート用ソフトから、本格的なオペレーティングシステムへの飛躍を遂げたバージョンです。Unix風の設計思想を取り入れることで、のちのWindows NT系列との橋渡し的存在とも言えます。


参考資料


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