MS-DOS 3.xの時代:LAN、FAT16、そして広がる世界(1984〜1987)

TECH

はじめに

1984年から1987年にかけて、MS-DOSはバージョン3.x系へと進化し、ネットワーク対応、国際化、大容量ストレージ対応、OEMカスタマイズなど、OSとしての本格的な拡張期を迎えました。この時代のMS-DOSは、単なるIBM PC用のソフトウェアから、世界標準のPC OSへと脱皮していきます。

本記事では、MS-DOS 3.0から3.31までの技術的進化、背景、そしてそのインパクトを徹底解説します。


MS-DOS 3.0(1984年8月)

背景

1984年8月、IBMは新世代マシン「IBM PC/AT(Model 5170)」を発表しました。搭載されたIntel 80286 CPUはより高速で、初期モデルからハードディスク(20MB)を標準搭載。これに合わせて登場したのが PC DOS 3.0(MS-DOS 3.0) です。

主な改良点

  • 80286対応(ただしリアルモードのみ)
  • 1.2MBの5.25インチ高密度(HD)フロッピーディスク対応
  • FAT12ファイルシステムの強化
  • 最大32MBのハードディスクサポート

FAT12の制限の中で32MBが限界でしたが、当時としては十分な容量でした。


MS-DOS 3.1(1985年)

LAN対応の第一歩

MS-DOS 3.1は、初めてLAN(ローカルネットワーク)機能を正式にサポートしたバージョンです。IBMの「PC Network」と連携し、MS-NETプロトコルをベースにしたプリンタ・ファイル共有が可能になりました。

  • NETコマンドの追加
  • DOSレベルでのファイル共有・プリント共有
  • ネットワーク依存アプリケーション開発の土台に

これにより、MS-DOSはオフィスや業務システムのネットワーククライアントOSとしての役割を担い始めました。


MS-DOS 3.2(1986年)

3.5インチフロッピーの時代へ

このバージョンでは、よりコンパクトで信頼性の高い3.5インチ(720KB)フロッピーディスクが正式にサポートされました。これにより、ポータブルPCやビジネス分野での利便性が向上します。

  • 720KB DD(Double Density)3.5″ FDD対応
  • ノートPCや小型ワークステーションへの普及加速

MS-DOS 3.3(1987年初頭)

最も広く普及したDOSの一つ

MS-DOS 3.3は、3.x系の中でも最も安定し、互換性と機能のバランスが良かったことから、世界中のOEMマシンで採用されました。

主な新機能と特徴

  • 最大4つのパーティションの作成に対応
    • ※MS-DOSがマウント可能なのはアクティブな1パーティションのみ
  • コードページとローカライズ対応
    • KEYB, CHCP, MODE コマンドで多言語環境に対応
  • CONFIG.SYSの強化
    • FILES=, BUFFERS=, DEVICE=などによる柔軟な構成

OEM展開の加速

Compaq、Toshiba、NEC、Zenithなどが各社向けのMS-DOS 3.3をカスタマイズし、自社製PCにバンドル。特に日本市場では日本語対応版MS-DOS(漢字ROM対応)が登場します。


MS-DOS 3.31(1987年末、Compaq OEM限定)

知る人ぞ知る“未来への試作機”

MS-DOS 3.31は、CompaqがMicrosoftと協力して独自開発したOEM版DOSです。最大の特徴は、FAT16Bを実装し、32MBを超えるハードディスクをサポートした点にあります。

技術的革新

  • FAT16B(拡張FAT16)により512MBまで対応
  • ハードディスクの論理セクタサイズとクラスタ数の柔軟化
  • 他の3.x系とバイナリ互換だが、内部構造は次期バージョンを先取り

このバージョンはMS-DOS 4.0の土台となり、後のWindowsとの整合性にも貢献します。


3.x時代の技術的・市場的意義

項目内容
ネットワーク対応MS-NETに基づくLAN機能で企業導入が進む
ディスク容量拡張3.31では512MBのHDDに対応(FAT16B)
国際化対応世界各国のローカライズDOS(キーボード・言語)
OEM展開多くのPCベンダーがMS-DOSを自社製品に搭載
GUI時代の助走MS-DOS上にWindowsを乗せる構造が整い始める

MS-DOS 3.xは、あらゆる面でDOSの“企業向け基盤”としての完成度を高め、次の時代=GUIとWindowsの時代への準備を整えた重要な世代でした。


参考文献・資料

  • Microsoft MS-DOS Version History – OS/2 Museum
  • 『Advanced MS-DOS Programming』(Ray Duncan)
  • IBM PC/AT Technical Reference (IBM 1984)
  • Compaq DOS Technical Documentation(1987–88)
  • BYTE Magazine Archives(1984–1987)

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