第7回:メッセージングと通信

― ネットワークは“追加機能”から“前提条件”へ

Windows 95以前、ネットワークは特別な環境だった。

  • 企業内LAN
  • 専用サーバ
  • 専門知識を持つ管理者

Windows 95は、この前提を壊した。
通信をOSの標準機能に引き下ろしたのである。


1. TCP/IPが「最初から入っている」という衝撃

Windows 3.1時代、
TCP/IPは「別売り」だった。

  • 専用スタック
  • サードパーティ製
  • 高価で複雑

Windows 95は違う。

TCP/IPがOSに最初から含まれている

これは技術的というより、
思想的な革命だった。


2. NetBEUIからIPへの転換

当時のWindowsネットワークは、

  • NetBEUI:簡単だが閉じた世界
  • IPX/SPX:Novell依存
  • TCP/IP:複雑だが世界標準

という三つ巴だった。

Windows 95は、
TCP/IPを“標準の一つ”ではなく“未来の標準”として扱った

結果、
Windowsはインターネットと不可逆に結びつく。


3. ダイヤルアップネットワークの抽象化

Windows 95のダイヤルアップは、

  • モデム制御
  • 回線設定
  • 認証処理

をOSが一括管理した。

技術者的には、

  • 遅い
  • 不安定
  • 設定項目が多い

それでも重要だったのは、

通信を「特別な操作」から「日常操作」に変えた

点である。


4. メッセージングという未完成領域

Microsoft Exchange(初期版)は、

  • メール
  • スケジューリング
  • 連絡先

を統合しようとした。

だが現実は、

  • 重い
  • 設定困難
  • 普及しない

それでもExchangeは、

通信はアプリではなくOSが扱うべき

という前提を植え付けた。


5. 通信スタックの脆さと代償

Windows 95のネットワークは不安定だった。

  • スタックのフリーズ
  • VxD暴走
  • 再起動必須

だがこの不安定さは、

普及のために支払われた代償

だった。

完全性より、
「つながる体験」を優先した。


6. セキュリティは“考慮外”だった

当時の前提はこれだ。

  • 常時接続ではない
  • 攻撃者はいない
  • LANは信頼できる

結果、

  • ファイアウォールなし
  • 権限分離なし
  • 暗号化は限定的

これは失策だが、
当時としては合理的判断でもあった。


7. Windowsは「孤立OS」を捨てた

Windows 95は、

  • ネットワークを内蔵し
  • 通信を抽象化し
  • ユーザーから隠蔽した

結果、

PCは世界と常につながる存在

になった。

この瞬間から、
Windowsは後戻りできなくなる。


まとめ:不完全でも“つながる”ことが勝った

Windows 95の通信機能は、

  • 遅く
  • 不安定で
  • 危険だった

それでも普及した。

理由は一つ。

「つながる体験」がすべてを上回った


次回予告(最終回)

第8回:リソースの共有とインターネットの使用
― Windows 95は“現代ネット社会”の入口だった

最終回では、
ファイル共有・プリンタ共有・IE統合を通じて
Windows 95が残した決定的な遺産を総括する。

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